「自殺予防週間」に寄せて ~ ストレスをありがたく ~
「自分の思い通りにいかない出来事」は、多くの大人にとって大きなストレスになります。
仕事が思うように進まなかったり、期待していた成果が得られなかったり
また、部下や子どもが思うように成長しなかったり、失敗を重ねたりする様子も、心の負担になりますよね。
イライラする。焦る。
動悸がしたり、夜眠れなくなったり。
こうしたさまざまなストレス反応が私たちの心と体に現れます。
場合によっては、人や物に八つ当たりしてしまったり、部下や子どもの仕事・課題を自分で代わりにやってしまったり……。
そんな形でストレスに対処しようとすることもあるでしょう。
ストレスの背景にある「思い通りにしたい気持ち」
そもそも「思い通りにいかないこと」がストレスになるのは、「思い通りになるはずだ」という心が働いているからです。
精神分析という心理学では、こうした心のはたらきを「万能感」と呼びます。
これは「世界は自分の思い通りになる」と無意識に信じている,あるいは錯覚している心の状態であり、もともとは赤ちゃんの頃に誰もが経験する自然な心の動きです。
赤ちゃんが持つ万能感と心の成長
「えっ,万能感は成熟した自尊感情が高い人が持つ心ではないの? 自信があるから万能感をもっているのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし,本来の自尊心や自信をもって生活をしている人は万能感を手放すことができている人たちです。
泰然自若(たいぜんじじゃく)。
どんなことにも動じず落ち着いていられる心を持つ人たちです。
「世界を思い通りにできる!」という万能感に満ち満ちているのは,実は私たちが赤ちゃんだった頃です。
赤ちゃんは、お腹がすいたり、オムツが濡れて不快になると、「オギャー」と泣くだけで養育者に対応してもらえます。
つまり、自分が行動しなくても「泣けば思い通りになる」世界に生きているのです。これが万能感です。
万能感に満ちた赤ちゃんの体験はとても大切です。
なぜなら,これによって「世界に働きかければ満たされるのだ」という信頼感が育つ基盤となるからです。
万能感の体験が弱ければ,信頼感の基盤が弱く,成長に悪影響を及ぼします。
「どうせ何やってもダメに決まっている」と世界に対して不信感を持ちやすく,その後の良質な人間関係の構築も難しくなってしまいます。
ところで,養育者も完ぺきではありません。
忙しくて赤ちゃんの不機嫌に気づけず,オギャーと泣いていてもどうして泣いているのかわからない時もあります。
このとき赤ちゃんは,欲求が満たされず自分の思い通りにいかないことを体験するのですが,世界に対する信頼の基盤がしっかりしていれば,多少満たされなくても問題ありません。
思い通りにならない体験によって,「自分の思い通りになる」という錯覚が少しずつ覚めていき,信頼感の基盤をもとに,「自分の思い通りにならなかった時」を味わうことができる心が育っていくのです。
大人のストレス反応は、心の成熟度のサイン
大人になっても、仕事や人間関係で思い通りにいかない場面に直面するたび、かつての「万能感」が無意識に顔を出すことがあります。
そのときに感じるイライラや不安は、実は「心の成熟度」を測るバロメーターです。
未成熟な万能感が強く残っていると、「自分の思い通りにしたい」という気持ちが強く出すぎて、心のバランスを崩してしまうかもしれません。
ハラスメントや暴力的な言動の背景にも、この未成熟な万能感が潜んでいることが少なくありません。
ついカッとなって大声を出すのは,赤ちゃんが「オギャー」と大きな声で鳴く名残なのかもしれませんね。
「思い通りにならない」からこそ、心は成長できる
「このままでは困る」「なんとかしなければ」と苦しむ中にこそ、心を成長させるチャンスがあります。
思い通りにならない現実を受け入れながら、どう対応するかを考えること。
それが、心の成熟につながり、よりよい人間関係や人生の安定につながっていきます。
とはいえ,困難なことに長く向きあい,心が疲れてしまっていてはは先に進めません
心が疲れたときは、心理カウンセリングを活用しませんか?
ストレスの原因を見つめ直し、自分の心のクセや反応パターンに気づくことで、より健やかな心を育むことができます。
心理カウンセリングは、そんな「心づくり」をサポートする大切なプロセスです。
もし今、「思い通りにならないこと」で悩んでいるなら、一度カウンセリングを試してみてはいかがでしょうか。
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